意見書

2024年に参加した、東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科 アートプロデュース専攻(GA)主催、「敷居を踏む Step on the Threshold」展の展覧会企画における、住友文彦氏の関与及びクレジットについての意見書を公開します。

 

私は学外者の立場ですが、本件を社会的に問題提起したく共有します。

住友文彦氏がアーツ前橋着任時に問題となった三つの事象について、住友氏及び大学の対応が不十分なことで起きた、学生主体の実習の場での忖度を指摘しています。ぜひご一読いただけますと幸いです。

 

うらあやか

 

P.S.

背景が黄色くて読みにくいでしょうがご容赦ください


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「敷居を踏む Step on the Threshold 」展における住友文彦氏のクレジット消去に関する意見書
敷居を踏む-Step-on-the-Threshold-展における住友文彦氏のク
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東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科 アートプロデュース専攻 殿

 

「敷居を踏む Step on the Threshold 」展における
住友文彦氏のクレジット消去に関する意見書

 

 

 

東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科 アートプロデュース専攻(以下GA)が主催した展覧会「敷居を踏む Step on the Threshold 」展に参加したアーティストのうらあやかです。

同展覧会において行われたクレジット記載の操作について、倫理的に重大な問題を感じ、意見を述べます。

 

①意見書の経緯

展覧会会期終了後に、SNSX」においてオンラインカタログ( https://shikii.geidai.ac.jp/online-catalog/ )に寄稿した五十嵐太郎氏の投稿を見つけ、それに応答する投稿を行いました。

 

(※投稿画像割愛、PDF版を参照してください)

 

以上を受けて、状況を共有する目的でGA教員室よりご連絡をいただき、私の方で被害状況をまとめる運びとなりました。

 

②住友文彦氏の展覧会への関与とクレジット記載に関して

 

本展に参加する以前より、GAの教授である住友文彦氏のアーツ前橋での「作品紛失隠蔽問題」「山本高之個展カタログ未発行に係る行政への虚偽報告指示の問題」「学芸員へのパワー・ハラスメント問題」が報道され、アートの専門家として注視していました。

 

そんな中、本展開催にあたり、2023924日、メールにて学生Aさんより出展のお誘いを受けました。20231015日、展覧会概要がまとまった連絡と共に開催概要のPDFを拝見しました。

 

PDFに住友文彦氏の名前があったので、彼の展覧会への関わりについて、私の意見と質問を個人的に学生Aさんに相談しました。

 

1 どの程度住友文彦氏が関係する展覧会なのか

2 住友文彦氏の関与およびクレジットがあるのなら展覧会参加を考え直したい。

 

上記2点について、私の考えを聞いてもらいました。

回答は以下のようなものでした。

 

 

1-1)キュレーション専攻の講義演習受講学生のうち有志による主体的な取り組みである。

1-2)展覧会の組み立てについては、住友先生というよりはGAの教員室によるバックアップの方が近い。

1-3)住友先生の実質的な関わりはないので、クレジットの記載については一度持ち帰ってチームで議論する。

 

2)上記[1-3]の議論を経た上でまた一緒に考える。

 

 

後日、キュレーター学生4名による住友文彦氏のクレジット記載についての議論が行われ、2024112日のメールにて、結果的に監修は藝大の教授の方などの個人名は出ず、研究科の授業名を記載する旨をご報告をいただきました。

 

オンラインカタログは展覧会会期中に随時更新される形で発行されました。

その寄稿者である五十嵐太郎氏が以下の投稿をXにて行いました。

 

https://x.com/taroigarashi/status/1774879613266874531

 

当初の私の意見に対応していただいたクレジットの記載にまつわる経緯を照らしてみれば、キュレーター学生の名前の記載がない中でクレジットにない住友文彦氏の名前が寄稿者の判断によって宣伝されていることに違和感を感じました。

関与がないのでクレジットから消すことになったはずの住友文彦氏はなぜか搬入期間中毎朝展示室にいました。「よろしくお願いします」と挨拶までされ、聞いていた話と現場が全く違うので、おかしいなと思いました。

 

 

では、なぜ「住友文彦氏を含む個人名をクレジットから消す」ということになったのでしょう?

 

私が問題を感じているのは、私の意見を学生が持ち帰り議論した結果、本来であれば載せるべきクレジットを消すという決定を行なったのではないかという点です。

ごく個人的な推測ですが、「円滑な運営のためにクレジットを消そう」ということになったのではないでしょうか。円滑というのは、私の意見に応答し望む展覧会運営を行う目的と、参加アーティストおよびキュレーター学生たちの不利益を回避する、という意味です(下記で「リスク回避」という語を用いて意見を書いている箇所がありますが、同様の事象を指します)。

 

 

(・・・)東京藝術大学、そして本研究科が議論してきたのは以下の3つの理由によります。

 

・すでに住友教授がアーツ前橋を退任し、本学の教育と研究に専念しているという状況の中で、今回の事案の本質が、住友教授が所属する当研究科の国際的な人材育成を目指す教育や研究の方針と密接に結びついていること。

・退任後のメディアの報道や美術評論家連盟の声明において住友教授の学芸員としての能力と、職業倫理、そして大学における教育能力に対して重大な疑義が呈されていること。

・この作品紛失が、そもそも芸術家や芸術に関わる専門家の育成に関わる我が国唯一の国立芸術総合大学としては看過できない問題を多く含んでいること。

20211011日付発表「アーツ前橋の事案に対する当研究科の対応方針」http://ga.geidai.ac.jp/2021/10/11/10267/

 

 

"アーツ前橋の借用作品紛失事案は、あくまでも前橋市、アーツ前橋、アーツ前橋の館長としての住友教授の間に関わる事案であり、本学は直接の利害関係者ではない。(・・・)317日付の前橋市の「調査報告書」を基盤として作品紛失についてなされた「訓告」処分を重く受け止めることにとどめ、前橋市、アーツ前橋、そして住友教授の間でなされるべき事案であると判断した。"

202332日付発表「キュレーション教育プログラム検討委員会報告書」http://ga.geidai.ac.jp/2023/03/14/11899/

 

 

この2021年に発表された方針と、2023年に発表された報告書の間に断絶を感じます。

GA及び東京藝術大学は公的機関としての責任を放棄しているように感じますが、この不十分な対応の結果、その体制を学生が内面化しているのではないかと思うのです。

 

介在するのならクレジットを載せるべきです。

その上で、アートの専門家であるアーティストとして私の判断は、アーツ前橋で起こった複数の看過できない問題に対して、皆が納得できる反論、説明ができていないままの住友文彦氏*1,2,3 の関与があるのなら展覧会に参加しないというものです。

 

 

最終的なクレジットについて、授業名を載せることで落とし所としたと認識していますが、元々記載する予定になっていた個人名を消すという小手先の判断と実際の運用の間に乖離を覚えます。正直にいえば、騙し討ちされたようで大変不快です。

 

国立大学で行われる公的な催しにおいて、クレジットの偽装が行われるのはおかしいことです。まるで「世間体を気にして目の前の問題に向き合わず、責任を取らず、実際には煙に巻く」という事なかれ主義が透けて見えるようです。そもそも、こんなところまで周到に学生が議論し隠蔽しないといけない状況であることからして異常なことです。

 

先ほど引用した大学の態度表明が不十分であることで、GAの事なかれ主義を学生が内面化することになったのではと感じます。その結果、学生に虚偽を働かせる教育が「主体性」の名の元に行われているのではありませんか。

 

住友文彦氏自身が事実と向き合わず、それに連動してGAの対応も不十分になり、という事実と向き合うことを先延ばしにする連鎖が起きていると認識しています。

その結果、学生が「リスク回避」の目的で「主体的に」クレジットの隠蔽操作を選択することが起きているのです。

 

紛失事案ではリスト改竄と虚偽報告を行い、記録集未発行問題では部下である学芸員に行政への虚偽報告と日付改竄を指示し、自分の言う通りにならない学芸員には「ハラスメントに該当する」と行政から認められ処分を受けた住友文彦氏の一連の問題を曖昧にしたまま教壇に立たせていることに連動しているのです。同じことが行われているのです。演習授業の成果展の場が、「クレジットの操作」という点において、虚偽と隠蔽の技術指導になってしまっているのです。学生主体によるこの操作の経緯は、小さく見積もられるべきではありません。実際に展覧会演習において行われたのです。それがキュレーションなのでしょうか。GAは世界で活躍するキュレーターを育てようとしているのではないですか。「キュレーターがクレジットの隠蔽操作」は絶対にだめです。あり得ません。

 

長くなりましたが、以上がGAに対し倫理的に重大な問題を感じる点についての意見です。

失敗を失敗として認識できる機会を作るのも、学生が安心して学ぶことができる教育機関の要件と考え、本件についてGAおよび学生とシェアし改めて振り返りを行う機会を持つことを希望します。

 

 

2024610

うらあやか

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資料

1 作品紛失隠蔽問題

賠償金400万円

作品計六点を紛失した問題で、市は遺族二人に計四百万円の損害賠償金を支払う和解案を決めた。三月二日開会の市議会定例会に関連議案を提出

2023225日報道:https://www.tokyo-np.co.jp/article/233160

 

経緯

“20201月に紛失が確認されたにもかかわらず、遺族への報告はその6カ月後だった。報告書では、当時館長だった住友文彦氏や学芸員が、遺族に事実を伝えることを避けようとしていたことなどが原因として指摘されている。一方、住友氏は「隠ぺいはなかった」と反論し、両者の主張は平行線をたどっている。

(・・・)情報公開請求によって入手した資料などをもとに再び検討、531日には「調査報告書の内容がおおむね妥当」だったとして撤回と謝罪をおこない、住友氏の言動を「美術館員及び評論家としての職業倫理に悖るもの」と厳しく批判している。

202166日報道:https://www.bengo4.com/c_18/n_13149/

 

 

2 山本高之個展カタログ未発行に係る行政への虚偽報告指示の問題

前橋市より山本氏へ賠償金80万円

(・・・)借用作品の紛失問題が起きたアーツ前橋(群馬県前橋市)が、出展アーティストとの契約を守らず、業務委託料の一部が未払いだったとして市はアーティストに謝罪し、損害賠償金80万円を支払った。(・・・)山本と交わした契約には同展の企画立案に加え、記録集の監修なども盛り込まれた。企画展は同年79月に開催されたが、記録集の内容をめぐり調整が難航。同館は一方的に記録集の発行を中止し、作成委託料の一部を支払わなかったという。アーティスト側は20209月に損害賠償を請求し、前橋市は経緯を調べた結果、同館が契約を一部守らなかったと判断。損害賠償金の支払いと、市の負担による記録集(2000部)の発行、同館ホームページでの1年間の謝罪掲載を決めた。

https://www.tokyoartbeat.com/articles/-/arts-maebashi-contract-violation-news-202303”

 

 

 

3 学芸員へのハラスメント問題

前橋市市長名義により被害者へ謝罪

アーツ前橋前館長らのハラスメントを市が認定。「ガバナンスが十分に機能せず、心的負担かけた」と被害者に謝罪。前館長は「懲戒処分に該当しない」との認識を示す

https://www.tokyoartbeat.com/articles/-/arts-maebashi-harassment-news-202312